テントやタープの耐水圧って、実際のところどれくらいあればいい? 雨が降っても雨漏りしないテントの耐水性能ってどの程度?
本記事では、耐水圧とはなにか?各メーカーの測定方法の違い。本当に必要な耐水圧について解説します。
ペラペラタープ
きっかけは、軽量・コンパクトで明るい(遮光性の低い)タープが欲しくって、ずっと我慢していたタープを先日ついに買ってしまったことです。
わかっていたこととはいえ、いざ購入して手元にあるものを改めて見てみると、「これほんとに大丈夫?」ってくらい、その生地はペラッペラです。
そんなわけで、適当キャンパーの僕が、いままであまり気にしていなかった、テント・タープの耐水圧について(本人的には)まじめに調べてみました。
耐水圧はどれくらい必要? 一般的に言われていること
とりあえずググります。結果、多くの意見は「ファミリーテントでは耐水圧が1,500mmあればOK」みたいな感じでした。
その理由として、「強い雨にも耐え得る耐水圧は1,500mm程度と一般的に言われている」っていうことのようです。
分かるような分からないような。。。だってテント作ってる人は、「一般的に言われている」と言われていることを根拠にスペックを決めたりしていないぞたぶん。
そもそも耐水圧の定義って何でしょう? 水圧の単位が”mm”ってどういうこと? これまで気にしていなかったくせに、なぜか急に気になったので、少し調べてみました。
耐水圧って何?
耐水圧というのが、耐水性能の指標であることはわかるのですが、実際のところどういうものなのでしょうか?
これは多くの場合JIS規格(JIS L 1092)で定める試験方法で出した値をベースにしているケースが多いと予想します。(後述するように、試験方法を公開していないメーカーが多く、あくまでも単なる予想です。)
JISの試験方法は、イメージでいうと以下のようなものです。(実際にはもっとちゃんとした試験方法が定められています)
まず底に試験対象の生地を固定した、直径113mmの円筒をイメージしてください。
その円筒に少しずつ水を入れていき(つまり生地にかかる水圧を上げていき)、底の生地の3か所から水漏れがした時の高さを記録します。(だから単位をmmと表記しているみたいです。正確にはmmH2Oと表記されるようです。)
この試験を5枚の生地片で行ない、その平均値を耐水圧と定義します。
これって2か所までならダダ漏れでもいいの? とか、たまたま一枚だけ極端に成績よかったら平均値も上がっちゃうじゃん?とか、若干の腑に落ちない点はありますが、いずれにしてもこれがJISの試験方法です。ちなみに国際規格であるISOでも同じ試験方法を採っており、海外でも同じ基準で耐水圧を定義していると思われます。
ところで、この試験方法は、あくまでもJIS規格で規定しているというだけの方法であり、各テントメーカーがカタログに記載する耐水圧にこの試験の結果を記載する義務はありません。そもそもこの試験をする義務がありません。
各メーカーの基準
そこで、実際のところどうなのか、各メーカーのサイトをチェックしてみました。
結論から言うと、テント・タープメーカーのカタログ値は、各社それぞれ独自の基準で決めているようです。
何社か調べたうちで、耐水圧の表記の根拠を一番分かりやすく示していたのは、DoDさんです。その製品スペックに以下のような注釈が入っています。
テント生産時にJIS L 1092(ISO811)方式にて耐水圧試験を行い、計測箇所の平均値ではなく、最低値が記載値以上となるように耐水圧を設定しています。
https://www.dod.camp/product/t3_488_tn/
試験方法はJIS方式ですが、試験結果の平均値ではなくミニマム値を使っているとのことです。
このように、DoDさんでは製品ごとのスペック表にテスト方法を明記して、スペック値の根拠をしっかりと示しています。素晴らしい姿勢ですね。ちょっとDoDさんに対する見方が変わりましたよ。
次に、鹿番長ことキャプテンスタッグさんもちゃんと試験方法を明記しています。
テントの生地に直径10インチの筒をあて、水を入れて圧力をかけていき、水が約70〜80%浸透した時の水位をmmで表示している。
https://www.captainstag.net/outdoor-life/tent
こちらは、上記のJIS規格とは違う試験方法のようです。「水が約70~80%浸透した時」っていうのはJISの基準よりだいぶゆるい気がするのですが、(生地の伸びやたわみとかを考えると)直径10インチというのはJIS方式(直径113mm)に比べるとかなり過酷な条件にも思えます。
なぜJIS方式でないのかわかりませんが、ちゃんと試験方法を示しているのは消費者に対して誠実ですよね。
実は上記2社以外で、ちゃんと試験方法を公開しているメーカーは見つけられなかったのですが、スノーピークさんでは以下の記載がありました。
スノーピークのテント、タープの耐水圧表記には、“ミニマム”という単語がついています。たとえば、アメニティドームの生地の耐水圧は「1,800mmミニマム」です。「平均値が1,800mm」なのではなく、「どこを計測しても最低1,800mmミニマム」なのがスノーピーク独自の表記です。市販されている製品の耐水圧の表記方法は、ほとんどが生地上の計測の平均値なのです。当然表記の数値より低い値の箇所も存在します。スノーピークのミニマムは、生地上のどこの1点を計測しても耐水圧の最低の数値が1,800mmを保証するスペックです。
肝心の試験方法が不明ですが、書き方からすると少なくとも上記のDoDさんと同等かそれ以上の厳しい基準を使っている感じがしますね。
※ 「感じがする」っていうだけで、本当にそうなのかはわかりません。なぜなら試験方法がわからないからです。そもそも試験方法が不明な数字なんか出されたって、そんなものにはなんの意味もないと思うんですけどね。。
残念ながら他のメーカーの情報は見つけられず、どうやら各社それぞれの考え方でスペック値を決めているらしいことは想像できます。
極端な話、試験方法次第で耐水圧の数字なんてどうにでもできちゃうということです。
であればこそ、試験方法はちゃんと公開してほしいところですね。
試験方法も示さずに試験結果の数値だけ出されても判断のしようがないんですよ。。
まあ、それなりに知られたメーカーであれば、そんなにあくどいことはしていないだろうし、カタログの値はざっくりとした目安っていう程度に考えればいいかと思います。
それに、これって生地の耐水圧ですよね? テントの雨漏りって縫い目とかからじゃないのかな? 僕の経験では、生地そのものから水が漏れてくるよりも、縫い目(の防水シール)が劣化してそこから漏れてくるイメージです。ちゃんと確認したこともないですけど。
雨傘の耐水圧
ところで、テントの耐水圧についていろいろとググっていると、たびたび目についたのが、普通の傘の耐水圧は200から500mm程度(だからテントの耐水圧1500mmってのは充分でしょっていうニュアンス)という記述です。
ちょっと僕には理解できません。だって、僕は傘の”生地”から雨漏りしたなんて経験はありません。(最近ビニール傘ばっかじゃないかというのはおいておくとして。。)
傘の先っちょの、生地とポール(?)の境目とかから水が漏れることはあっても生地そのものから雨漏りしたりするものなのでしょうか?
傘の耐水圧500mmでOKなら、テントも500mmでいいんじゃないの?
なぜ雨傘より大きい耐水圧が必要なのか?
この疑問については、MSRの(おそらく)公式ブログにあった以下の説明がわかりやすく答えを出してくれました。
※ 日本語は僕の訳です。間違ってたらごめんなさい。
So how many millimeters of waterproofing do you need?
The short answer is, not always a lot. A point of comparison is an umbrella, which you might assume to be a good example of waterproof protection. Umbrella fabric in our hydrostatic head tester resulted in a rating of just 420 mmH20, showing that a bigger number is not always needed when it comes to keeping you dry. So then why do tents have waterproofing ratings of 1,000-10,000 mmH20? Part of the reason has to do with the greater durability that thicker waterproof coatings with higher waterproofing ratings often provide (up to a point—more on this topic later). But because an umbrella is held aloft, it doesn’t typically see the kind of abrasion that, say, a tent floor might undergo. This minimal abrasion helps explain why tarps can offer waterproof performance at a lower rating than tents, which often require more coating to compensate for wear and tear .で、耐水圧はどのくらい必要なの?
簡潔に言うと、常に高い耐水圧が必要なわけではないよ。防水機能をイメージしやすい良い例が雨傘かな。俺たちの試験装置で傘の耐水圧を測定した結果、たったの420mmだったよ。つまり、 雨に濡れないための耐水圧はそんなに大きくなくても良いってことだね。だったらなんでテントに1,000-10,000mmもの耐水圧が必要なのかって? その理由の1つは、分厚い耐水コーティング、すなわち耐水圧の高いコーティングは耐久性に効いてくるってことなんだよ。(耐久性に効くといっても”ある程度は効く”だよ。これについては後で説明するよ。) ところで、傘っていうのは頭の上にさすものだろ? だからテントのフロアが受けるほどの摩耗はないわけなんだ。このことは、耐摩耗性を補うために厚めのコーティングが必要なテントよりも、タープの耐水圧が低くてもOKという理由にもなっているわけなんだ。
Is a higher waterproofing rating always better?
Actually, it isn’t better in all cases. A higher waterproofing rating doesn’t always translate into durability. In fact, the more coating you add, the heavier and more rigid the fabric becomes, and—after a point—the more susceptible to tearing. It’s another reason why the rainfly on the Hubba Hubba™ NX has a lower waterproof rating than the tent floor, and why the rainfly on our ultralight FlyLite™ tent has an even lower rating of 1,200 mmH20.耐水圧は高いほうが良いの?
実際のところ、常にそうとは限らないよ。 耐水圧が高いほうが常に耐久性も高いってわけじゃない。事実、コーティングを厚くすれば生地は重くなるし硬くなる。そしてその結果、裂けやすくなるんだ。
Rainfly fabric, especially lighter weight fabric, shouldn’t be-made too rigid with waterproof coating as the fabric must withstand dynamic and sustained forces such as wind gusts and guying out.特に軽量なフライ生地は、あまりコーティングで硬くなり過ぎないようにしないとだめなんだ。そうしないと暴風雨のときみたいな、強弱の変化が続くような力に耐えらなくなってしまうから。
要するに、雨傘の耐水圧が420mmHgしかないことからわかるように、実際はそんなに大きな耐水圧は必要ない。ただし、耐久性を考慮すると(新品時の)耐水圧も1000mmHg以上のものになる。っていうことのようです。
誤解のないように断っておきます。MSRさんは登山とかで使うような軽量テントで知られるメーカーです。必ずしもオートキャンプ向けのテントに適用できる考え方ではないかもしれません。
ただ、僕にとってはこれが1番しっくりくる説明でした。
ところで、「コーティングが厚いと生地が裂けやすくなる」って、これはちょっと見過ごせまんね。
コーティングで生地が弱くなる?
これについて調べてみたところ、関連する論文を見つけました。ごく一部ですが抜粋します。(日本語は例によって僕の訳ですので間違っているかもしれません)
Fig.6 shows the effect of coating with PVC and styrene acrylicon the tearing of the fabrics. It is clear from the figures that the coating material applied on the fabric decreases the tearing strength. This is due to the adhesion effect of the coating material, which tends to harden the fabric and close the thread spaces so that the fabric becomes as a hard sheet preventing the mobility of the yarns and restrict it.
図6にPVCとスチレンアルカリコーティングによる生地の裂けやすさへの影響を示す。この図から、生地にコーティングを施すことにより、引き裂き強度が低下することは明白である。これは、コーティングが生地の繊維に固着することにより、生地の糸が柔軟に動くことを妨げ、生地が固くなることが原因である。
Structural parameters affecting tear strength of the fabrics ternts
引用部分だけだとちょっとわかりにくいですが、コーティングがない場合は、ちょっと裂けそうになっても、生地の糸が柔軟に動くことによって裂ける力を分散させる方向にうまいこと変形する。
一方コーティングがある場合、糸が動く自由度がなくなり引き裂く力を分散させることができず、その結果生地が裂けやすくなるということのようです。
そしてこれも誤解のないように補足します。上記の引用部は、コーティングがPVCやスチレンアクリル樹脂の場合の話です。テント、タープの防水は普通PU(ポリウレタン)コーティングで、これは少なくともPVCよりずっと伸縮性があるものです(スチレンアクリル?すいません分かりません)。なので、PUの場合でも裂けやすくなることに変わりはないでしょうが、その度合いは上記の結果よりも小さくなると思います。
それと、一部の高級テントで使われることがあるシルナイロンは別物。これは実際にはコーティングじゃなくって、生地の繊維(ナイロン)自体にシリコン樹脂を染み込ませたものです。その結果、強度はむしろ(というかすごく)強くなるらしいです。
ちなみに、テントの耐水圧が1,000-1,500mmあればほぼOKというのは、アメリカでも一般的に言われていることみたいです。そして、「1,500mm以上の耐水圧が要求されるような状況では、雨漏りなんかよりも他に心配することがあるだろコラ」ってことみたいです。
耐水圧が高いテントは通気性が悪い?
たまに見かけるのですが、「耐水圧が高い生地ほど通気性が悪い」っていうのはちょっと怪しい話です。
一般的な(というかほとんどの)ダブルウォールテントのフライ生地に通気性はありません。
先にも述べましたが、多くのダブルウォールテントはPUコーティング(ポリウレタンコーティング)です。そして、このPUコーティングは薄い場合でも通気性はほぼないです。
だからベンチレーション窓を開けたりして通気を確保するんですね。
一部の山岳用のシングルウォールテントなどは透湿性(湿気を通す性質)のある特殊なPUコーティング(例えば多孔質PUコーティングというもの)を施してあったり、PUコーティング以外の透湿性のある素材を使ったりしていて、種類にもよるようですがこれらは通気性があります。
最近は積極的に通気性を確保するように作られたもの(例 : モンベルのブリーズドライテック)もあったりします。
ただし、こういった特殊な素材は、普通はダブルウォールテントに使われたりしていません。防水と通気性を両立できるのがダブルウォール(防水性のあるフライ+通気性のあるインナー構成)の利点の1つなわけですから、その必要もないんですね。
さいごに
だらだらと長くなったけど、いろいろと調べた僕の個人的な結論です。
よく言われる、必要な耐水圧は1,500mmっていうのは大雑把な目安くらいに考えれば良い。
耐水圧のカタログ表記はメーカー間で統一されているわけではありません。ある意味メーカーのさじ加減で耐水性能の数字は前後し得ます。
どのメーカーも耐水圧の表記は生地自体の試験結果に基づいてるっぽい。生地の継ぎ目の耐水圧はよくわかリませんでした。
コーティングの劣化を考えると、耐水圧が高めの方が余裕があると思われます。
テントは摩耗しないように大事に扱うほうがいいでしょう。耐水圧のカタログ値は新品時のもので、テントを使うたびに耐水性能は落ちていきます。
テントフロアの耐水性を維持するためには、ブルーシートでもなんでもいいから、グランドシートを使いインナーにもなにか敷くと良いでしょう。
でもやっぱり雨漏りって、生地よりもその縫い目だと思うんですよね。