ガスバーナー/ランタンのドロップダウンはガス缶カバーで防げるのか?【実はむしろ逆効果】

前回の記事に引き続き、キャンプ本みて改めて考えてみたシリーズです。

その本とはこちら。僕はなかなか面白いと思いました。

そして、今回改めて考えた、というか、もうちょっと掘り下げて解説するのは、

こちらの記事でちょろっと書いた、ガス缶にカバーをしてもドロップダウン(火力の低下)の対策にはならないし、むしろ逆効果ですよ、っていう話です。
違う言い方をすると、ガス缶カバーの保温性が高ければ高いほど、ガス缶の温度は下がりますよっていうことの説明になります。

上記の本にもこの点について説明がありますが、僕の考えと180度違うわけではないけど、若干引っかかる説明だったので。。

ドロップダウン現象って何?

ガスカートリッジを使う火器(バーナーやガスランタンなど)において、ドロップダウン現象とは、ガスの温度が下がって火力が弱まってしまう現象の事です。

ガスバーナー/ランタンを使うとガス(缶)の温度が下がる

キャンプや登山などで使うことがあるガスバーナー、ガスランタンや、家庭でもよく使われるカセットコンロですが、どれもガスボンベの中には液化ガス(LPG)が入っていますね。

そして、その液化ガスが蒸発して気体のガスになってから燃えるようになっています。

この液体から気体になる(つまり気化する)ときに、そこそこのエネルギーを必要とします。

そして、そのエネルギーはどこからやってくるかというと、周囲の熱なんですね。

つまり、液体のガスは周囲から熱を奪って気体になるというわけです。この熱が気化熱と言うやつです。

つまり、ガスが気化するときに熱が奪われるので、周囲の温度が下がるというわけです。

ガス缶は気化熱で温度が下がる

注射を打つ前のアルコール消毒って、ひんやりしますよね。

あれはアルコールが気化するために気化熱が奪われるからなんです。

ほんの少しのアルコールでも、意外とがっつり冷えるものだと思いませんか?

バーナーやランタンを使うということは、それだけガスを気化させるということになるので、ガス缶自体の温度がどんどん下がっていくというわけです。

温度が下がるとガスの圧力が下がる

ガスが気化するには、気化熱が必要だというところまではわかりました。

それでは、バーナーなどを使ってガス缶の温度が下がってきたらどうなるでしょうか?

温度が下がると、ガス缶の中の気体ガスの圧力が下がります。

ここで、大洋液化ガス株式会社さんのウェブサイトから引用した、各種ガスの温度と圧力の関係を示すグラフを以下に示します。

LPGの蒸気圧曲線
https://www.taiyolpg.com/lpg_notes_graph.html より

赤い線が、カセットガスでよく使われるブタンガスの温度と蒸気圧の関係です。

例えば、25℃であったガスが10℃まで温度が下がった場合を見てみると、その圧力は半分以下になってしまうことがわかりますね。

ガスの圧力が下がれば火力も下がる → これがドロップダウン現象

ガスの圧力が低くなってしまうので、当然バーナーに供給されるガスが少なくなります。

そして火力が弱くなってしまうというわけです。

つまり、「ガス機器を使用する → 気化熱でガス缶の温度が下がる → ガスの圧力が下がる → 火力が弱くなる(あるいは火が消える)」この現象をドロップダウン現象と呼んでいるわけです。

これまでの説明でわかるかと思いますが、この現象は気温に関係なく起こるものです。
※ レギュレーター(圧力調整)付きの機器などの場合、ちょっと事情が変わるのですが、ここでの説明にあまり関係ないので考慮しないものとします。

特に気温が低いときに、このドロップダウン現象のせいでバーナーの火力低下やランタンの明るさの低下が目立つ(場合によっては使い物にならないくらいになる)ため、冬場や気温が低い高地などで使用する際に問題になることが多い現象です。

ガスバーナーを使用する際、実際にはどのくらいの気化熱が必要になるか考えてみます。

まず、普通この手のガス缶に充填されているのは、ノルマルブタン、イソブタン、プロパンのどれか、あるいはそれらの混合ガスです。

これらのガスの性質については、日本LPガス協会のこちらのサイトにまとまっていました。

このサイトの表にある、高位発熱量と低位発熱量を見てみます。

プロパンノルマルブタンイソブタン
蒸発潜熱 [kJ/kg]425.76385.30366.43
高位発熱量 [kJ/kg]50,35049,50149,359
液比熱 [kJ/(kg・k)]2.52002.40502.4368
https://www.j-lpgas.gr.jp/intr/seishitsu.html より引用

ここの「蒸発潜熱」というのが気化熱そのものです。

気化熱はざっくり 400[kJ/kg]として計算していきます。

つぎに、ガスバーナーのガスの消費量を考えてみます。

例えば、SOTOの人気バーナーであるST-340のスペックを見ると、最大発熱量は3.3kWとなっています。
後の計算のためにkWをkJに変換すると、
3.3 [kW] = 11,880 [kJ/h]
となります。1時間でだいたい11,880 [kJ]の発熱量があるということになります。

ところで、この「発熱量」というのは、ガスを燃やしたときの「高位発熱量」のことです。

そうすると、上の表からプロパンやブタンの高位発熱量はだいたい50,000[kJ/kg]なので、発熱量が3.3kWのバーナーが1時間燃えたときに消費するガスは、
11,880[kJ/h] / 50,000[kJ/kg] = 0.238 [kg/h]
となります。

0.238[kg]のガスが燃える、つまり気化するので、その気化熱は先に計算した値を用いると、
400[kJ/kg] ✕ 0.238[kg/h] = 95[kJ/h]
ということになります。

ここで、最初の表の「液比熱」を見てみます。
これは、1[kg]の液体ガスの温度を1℃上げるのに、大体2.5[kJ]の熱量が必要ということです。

この値を使うと、バーナーを1時間使用したときのガスの気化熱は、
95[kJ/h] / 2.5[kJ/(kg・K)] = 38[kg/h・K]
となります。

つまり、3.3kWのバーナーを1時間使い続ける場合の気化熱は、1kgの液化ガスの温度を38℃上げるのに相当する熱量ということになります。

ここで、もうちょっと現実に近づけたいので、バーナーを燃やしている時間を10分とし、液化ガスを200g(ガスボンベに8割くらいガスが残っている感じ)としましょう。
38[kg/h・K] ✕ (10/60)[h] / (200/1000)[kg] = 31.6[K]

つまり、出力が3.3kWのバーナーを10分使う場合の気化熱は、200gの液化ガスを大体30℃上昇させるのに相当する熱量ということです。

これが意味するところは、もしすべての気化熱をガス缶の中の200gの液化ガスから奪うとした場合は、10分間で液体ガスの温度が30℃下がるということになります。
※ ガス缶のなかの液化ガスが少ない場合はもっと温度が下がりやすくなります。

※ 実際には、このあとに説明するように、ガス缶の外からも熱が入ってくるので、ここまで温度が下がるわけではありません。
※ そもそも簡単にするために結構乱暴な計算をしています。ただ、気化熱の影響は大きいんだなぁと言うのを感じていただければと思います。

ドロップダウン現象があるのに火力が安定するのはなぜ?

ここまでの説明だと、ガスを使えば使うほど火力が弱くなってしまうようにも思えますよね?

ただ、実際に使ってみると普通はそんなことはなくて、ちゃんと安定した火力を得ることができます。

なぜそうなるのか、これから説明していきます。
本記事の結論につながる重要な部分の一つですよ。

外からガス缶に供給される熱=気化熱 になると火力が安定する

ガス缶がの温度が下がると言っても、延々と下がり続けるわけではありません。

なぜなら、ガス缶の周りは冷えたガス缶より温かい空気で囲まれているわけですからね。

ここで、ガス機器を使用する場合のガス缶の温度について考えてます。

ガス機器を使用する前は、無理に冷やしたり温めたりしていない限りは、ガス缶の温度と周囲の温度は同じですよね。

ここで、ガス機器を使用し始めると、先に説明したように、ガス缶の温度が下がっていきます。

ガス缶の温度が周囲より下がれば、周囲からガス缶に熱(熱量)が移動していきます。
熱は温度が高い方から低い方に移動するためです。

熱いお茶を入れたコップを部屋においておくと、お茶から周囲の空気に熱が移動します。
冷たいジュースを入れたコップを部屋においておくと、周囲の空気からジュースに熱が移動します。

ほっておけばどちらも室温と同じ温度になることは直感的にも理解できますよね。
その理由が、熱は温度が高い方から低い方へ移動するためなのです。

温度が高いほうから低い方へ移動する熱は、温度差が大きいほど多くなります。

そのため、ガス缶の温度が下がれば下がるほど、周囲から移動してくる熱量が大きくなります。

いずれは、ガス缶の中で気化熱によって奪われる熱量と、ガス缶の周囲から移動してくる熱量が等しくなります。

ガスの気化熱と外から供給される熱が等しくなる

気化熱と周囲から移動してくる熱量が等しくなるということは、失われる熱量と供給される熱量が等しくなるということなので、温度はそこで変化しなくなります。

つまり、ガス缶と周囲の温度差がある一定の値になったところで、それ以上ガス缶の温度は下がらなくなるということです。

温度が下がらなくなる時点でガスの圧力も下がらなくなる(そのため火力も下がらなくなる)ということです。

言い換えると、ガス缶と周囲の温度差が一定のところになっ時点でドロップダウン現象はとまるということになりますね。

ガスバーナー/ランタン等の火力を保つには周囲からガス缶に熱を供給する必要がある

ここまでの説明でわかるように、ドロップダウン現象を抑えるためには、ガス缶の外から中への熱の移動が必要だということがわかりますね。

実は、一般的なカセットコンロには、ドロップダウンを抑えるための仕組みが入っています。

カセットコンロのヒートパネル

上の写真のヒートパネルがそれです。

このヒートパネルですが、火がつくバーナーの近くからカセットボンベを置く位置まで繋がっていますよね?

このヒートパネルによって、高温になるバーナーからカセットボンベまで熱を運んでいるのです。

そうしてボンベを強制的に温めてやるようになっているわけです。
よくできていますよね。

アウトドア用のバーナー等の多くには、このような仕組みはありませんので、基本的にはガス缶に触れている空気からの熱(と、製品によっては炎や熱くなった鍋の底等からの輻射熱)が頼りとなります。

ガス缶カバーに保温性を求める?

すでにここまでの説明で十分だという人も多いかと思いますが。。

ガス缶カバーに保温性があればあるほどドロップダウン現象を促進します。
言い換えると、ガス缶カバーに保温性があればあるほど火力が弱くなるということになります。

もっというと、ドロップダウン(火力の低下)を抑えるという目的だけを考えると、ガス缶カバーはないほうがよいです。

おそらく「保温」という言葉の印象が誤解を生む理由の一つではないかと思います。

保温? 保冷?

何かを温かいまま保つのが保温、冷たいまま保つのが保冷、ということになるのかと思います。

まず、「保温」について考えます。

保温とは、温かいものの温度を保つ、つまり、熱を外に逃さないようにするということです。

それではよく目にする「保温性のある素材」とはどういうものを言うのでしょうか?

保温性があるということは、熱を逃さない、つまり熱を伝えにくい(通しにくい)素材ということです。
熱を伝えにくければ、当然外に逃げていく熱は少なくなりますからね。

では、「保冷」はどうでしょうか?

保冷は、冷たいものの温度を保つ、つまり、外部から熱が入ってこないようにするということになりますね。

もうわかりますよね。
保冷性があるということは、熱を取り入れない、つまり熱を伝えにくい(通しにくい)ということになります。

要するに、保温も保冷も熱を通しにくくするという点で同じものということです。
例えば、魔法瓶に温かいお茶を入れたら温かいまま保つ(保温)し、冷たいお茶をいれたら冷たいまま保ち(保冷)ますよね?

保温(保冷)性があるということは、単に外部と熱の出入りが少ないというだけのことです。
保温性があるからと言って、ガス缶のように勝手に冷たくなるものの温度が下がらないようにする効果など無いということです。

ガス缶カバーを使うとどうなる?

先に説明したように、ガス缶の内部の熱は気化熱として失われていきます。

ガス缶内部の熱量はどんどん減っていくので、ドロップダウン現象を抑えるには、失われた分の熱をガス缶の外から供給してやるしかありません。

ところで、ふつうのガス缶のカバーは布製だろうと革製だろうと、何もないよりは熱は伝わりにくくなります。(つまり多少なりとも保温性があります)
※ 生地がペラペラのシャツでも裸でいるよりは保温してくれますよね?
カバーの保温性が高ければ高いほど、周囲からの熱はガス缶に伝わりません。

ガス缶カバーによって外部からの熱が届かなくなる
ガス缶カバーによって外部から供給される熱が少なくなる

つまり、ガス缶カバーは、ドロップダウンを抑える働きを邪魔する存在になってしまいます。
なぜなら、周囲からの熱の移動を邪魔してしまうからです。

これが、ス缶カバーの保温性が高ければ高いほど、ガス缶の温度は低くなり、ドロップダウン現象を促進することになるということの理由です。

例えば、ガスを使う前に、ガス缶を温めておくような使い方の場合はちょっと話が変わってきますね。これはやり方によっては危険な方法なので、普通のキャンプの場合はやめましょう。やるにしてもせいぜい人肌で温めるくらいにしておいたほうがよろしいかと思います。

ガス缶が外部の温度より高い状態の短い間だけは、カバーをしたほうが温度の低下は抑えられますので。
ガス缶の温度が外気温と同じになった時点で、ここまでの説明にあるように保温性のあるカバーは逆効果になります。

じゃあガス缶カバーは何のために使う?

というわけで、寒いときに目立つ火力の低下を抑えるために、ガス缶カバーは役に立たないどころか、状況を悪化させるだけのものとなります。

とはいえ、ここまで言っておきながらなんですが、気温が高い夏場とかなら大した影響はありません。
寒い時だけ気にすればいいことだと思います。

そもそもガス缶カバーは見栄えを良くするため、あるいは酷い見栄えのガス缶を隠すためのものだと考えて良いのではないかと思っています。

バーナーや鍋底からの輻射によるガス缶の過熱を防ぐメリットがあるとする考えもあるようですね。
カバーによっては裸のガス缶より輻射熱を吸収してしまう場合もあるかもしれませんし、これは諸刃の剣でもあるような気がします。

個人的には、もし輻射熱でガス缶が過熱してしまうなら、まずはその使い方そのものを見直すべきだと思います。

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KANI

キャンプ好きサラリーマン。歴は長いけど最近キャンプの機会は激減中。
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