自宅でテーブルを囲んだり、キャンプや災害時にも使えるカセットコンロについて、数ある製品の違いを理解するため、カセットコンロの基本構造を簡単に知っておきましょう。
本記事では、カセットコンロの基本的な構造を説明し、そこから各製品の違いについて理解することにより、自分の用途に応じた最適なカセットコンロを比較・選定できるようにしていきます。
記事の最後には、場合によってはカセットコンロよりも便利な卓上IHクッキングヒーターについての説明も記載しています。
カセットコンロの基本構造
カセットコンロの内部を見てみると、大部分の製品はこの写真のような構造になっています。
意外とスカスカですよね。
実際カセットコンロのサイズは使用する鍋の大きさに合わせていたりするために、何もない空のスペースが大きくなってしまっているのです。
ガバナー
ガバナー(Governer)とは、カセットボンベから出てきたガスを、安定した適切な圧力に調節してバーナーに供給する圧力調整器です。もちろんその圧力はつまみで設定します。
カセットコンロのガバナーには、圧力感知安全装置もついています。
これは、カセットボンベ内の圧力(=カセットボンベから出てきた直後のガスの圧力)が高くなると自動的にガスの供給を遮断するというものです。
カセットボンベが過熱される(過度に熱せらる)と、ボンベ内の圧力が高くなりすぎ、ボンベの破裂・爆発の危険があります。これはそれを防止するための安全装置であり、日本国内で(合法的に)販売されているカセットコンロにはすべてついています。
安全装置が働くと、ガバナー内部でガスの供給を止めるタイプのものもありますし、マグネットについているカセットボンベを押し戻してガバナーから外してしまうタイプのものもあります。
どちらのタイプの場合でも、コンロの火は消えますが、カセットボンベ内部の圧力が下がるわけではありません。ガスの供給を止めてもボンベの加熱が続く場合は破裂・爆発の危険があります。
例えば、コンロの火を止めても加熱が続く「カセットコンロを2台並べて1枚の大きな鉄板を使う→1台の火が消えてももう一台の火がボンベを加熱し続ける」「カセットコンロで炭火おこしをする→コンロの火が消えても炭火がボンベを加熱し続ける」など使い方をした場合、この安全装置は用をなしません。
こういった使い方は絶対にしないようにしましょう。そして、説明書の注意事項は必ず読みましょう。
バーナー
ガバナーから送られてきたガスと空気を混合させ、燃焼させるのがバーナーです。
このバーナーには主に以下の3つのタイプがあり、それぞれ特徴が異なります。
外炎式
最も一般的な、バーナーから外側に炎が出るタイプのものです。
現在販売されている家庭用のビルトイン/テーブルコンロはみなこのタイプです。
※ 以前は次の内炎式のものもありましたが、現在は内炎式コンロには取り付け出来ない温度センサーが義務付けられているため、すべて外炎式となっています。(業務用のコンロやカセットコンロにこのセンサーの取り付けは義務付けられていません)
内炎式
バーナーの内側に炎が出るタイプのものです。
使う鍋が比較的小さい場合など、外炎式の場合は炎が鍋からはみ出てしまって熱量が無駄になるのに対し、内炎式は無駄になる熱量が少なくなります。
一方で、大きめのフライパンやプレート(鉄板等)を使う場合、特に弱~中火の時は炎が中心付近に集中してしまうため、フライパン等に熱ムラ(中心が熱くて周辺は熱くない)ができやすく、中心は焦げやすく、周辺部は火が通りにくい等があり、焼き料理はやや苦手な面もあります。
多孔式
小さな穴がたくさんあり、それらから小さい炎を出すタイプのものです。
炎が小さいため、風にあおられて火が消えにくく、また一部の火口の火が消えてもすぐ近くにある隣の火口の火がすぐに移るため、風に強いタイプです。
風に強いことから、アウトドア向けのガスバーナーでは主流の方式となっています。
ヒートパネル
カセットボンベは、そのまま使っていると内部の液化ガス(LPG)が気化する際に気化熱が奪われることによって冷えていきます。
ガスが冷えてしまうと、気化ガスの圧力が下がってしまうため、結果として火力が弱くなります。
このような火力の低下を防ぐため、現在販売されているほとんどのカセットコンロには、ガスボンベを暖かくするための仕組みがあります。
これがヒートパネルです。
その原理は単純で、炎の近くとボンベを金属板渡すことで、炎の熱をボンベに伝えてやるというものです。
このヒートパネルにより、ボンベの温度低下やガス残量が少なくなった際の火力低下を防ぐことができます。
最大発熱量と連続燃焼時間の関係
発熱量と燃焼時間は相反する
よく誤解されていますが、カセットコンロの発熱量と燃焼時間は基本的に両立しません。
つまり、発熱量が大きくてかつ連続燃焼時間も長いコンロを探そうとするのは無駄な努力です。
ちょっとややこしい説明になりますが、1リットルのガスが燃えたときに発生する熱量は、コンロの種類によらず一定です。発熱する量は燃やすものによって決まります。
※ もちろん、完全燃焼する場合のはなしです。普通のコンロは完全燃焼します。
カセットコンロの場合、ボンベ1本分のガスをすべて燃焼した際の総発熱量はカセットコンロの種類によらず一定です。
ボンベ一本分のガスを燃焼した際の発熱量と燃焼時間の関係は以下のようになります。
発熱量✕燃焼時間=ボンベ1本分のガスが持つ総発熱量 ※ 発熱量が一定と仮定
つまり、発熱量と燃焼時間は反比例の関係にあり、例えば発熱量が大きければ、その分燃焼時間は短くなるということになります。
「火力が高いコンロはその分燃焼時間が短くなる」わけですから、あたり前といえばあたりまえですよね。
ガスの種類による差もほとんどない
カセットガスに使用されているガスは、ノルマルブタン/イソブタン/プロパンの3種類です。
それぞれの総発熱量を表にしたものが以下となります。
ノルマルブタン | イソブタン | プロパン | |
総発熱量 [kJ/kg](約25℃) | 49,525 | 49,383 | 50,374 |
日本LPガス協会 : LPガスの性質より抜粋引用 |
ほぼ50,000kJ/kgということがわかりますね。
一般的なカセットボンベの場合、ガスの内容量は250g(= 1/4kg)なので、総発熱量はざっと12,500kJ → 約3,000kcal(キロカロリー)となります。
ここで、メーカーが公表している最大発熱量と連続燃焼時間を見てみましょう。
カセットフー 風まる | カセットフー エコプレミアム | |
---|---|---|
最大発熱量 | 3.5kW (3,000kcal/h) | 2.9kW (2,500kcal/h) |
連続燃焼時間 | 約66分 | 約72分 |
イワタニ公式サイトより |
エコプレミアムの方は、発熱量と連続燃焼時間は前出の計算通りになっている一方、風まるについては計算で導き出される燃焼時間(60分)よりやや長くなっています。
なぜ計算で出した時間より長いのでしょう?
イワタニのサイトの説明によると、連続燃焼時間は「気温20~25℃のとき、強火連続燃焼にてカセットガス1本を使い切るまでの実測値」としています。ここがポイントなんですね。
つまり、実際にガスを燃焼させた場合、常に最大発熱量を出す火力で燃え続けるとは限らないということです。
スペックの値はあくまでも「最大」発熱量なので、実際には温度などの条件でそれより低い火力で燃えたりしているわけですね。
発熱量と熱効率
ここまでは、ガスが燃焼した際の発熱量を中心に話を進めてきましたが、実際に調理する際に感じる火力に大きく影響するのが「熱効率」です。
ここで言う「熱効率」とは、ガスの燃焼により発生した熱量に対する、実際に食材に伝わる熱量の割合のことです。
例えば、最大発熱量3,000kcal/hのコンロで最大火力を使ったとき、熱効率が50%であれば、食材に伝わる熱量は半分の1,500kcal/hになると言うわけです。
これはバーナーから出る火の状態や使用している鍋などによって大きく変わることもあり、カセットコンロの仕様として熱効率は公開されていないようです。
ここで、1つの例を見てみます。
イワタニのカセットフー達人スリムIIIというカセットコンロの商品説明ページによる説明によると、1.4リットルの水の温度を75℃上昇するのに要するガスは20.9gであったとのことです。
まず、1.4リットルの20℃の水を95℃にするのに必要な熱量は、以下になります。
(95-20)✕1,400 = 105,000 [cal] (= 105kcal)
次に、20.9gのガスを燃焼した場合の発熱量は以下となります。
50,000[kJ] ✕ 20.9/1000.0 = 1,045[kJ] (≒ 250kcal)
つまり、ガスの燃焼による発熱量が250kcalであり、水の温度を上げるのに要した熱量が105kcalということになります。
つまり、この場合の熱効率は以下の通り、40%程度ということです。
102/250✕100 = 40.8 [%]
先にも述べたように、熱効率は鍋の種類等により大きく変わるのですが、条件が良い場合でも50%程度だと考えておけば良いと思います。
ところで、バーナーの形式で外炎式と内炎式がありました。内炎式の方が無駄になる熱量が少ないと先に説明しましたが、これはすなわち熱効率が良いということになるわけです。
こちらの実験結果では、内炎式バーナーは外炎式バーナーより1割弱熱効率が良かったとのことです。
例えばカセットボンベの価格が200円だとして、20円分くらいお得に使えるというわけですね。
その他の使い勝手に関係するポイント
五徳の高さ(カセットコンロの薄さ)
テーブルから五徳の上面までの距離(高さ)は使い勝手に大きく影響します。たいていの場合、これは低い方が使いやすいです。
例えば、テーブルの上にカセットコンロを置き、その上に鍋を置くとします。当然、鍋の位置は低い方が使いやすいですよね?
実際のところ、上記のような3cmの違いはかなり大きな違いに感じられると思います。
掃除のしやすさ
これは僕の使い方ではほとんど気にならない(カセットコンロが汚れるようなことはほとんどない)のですが、使う頻度が多い場合は重要なのかもしれません。
最近の大抵のカセットコンロは汁受け/五徳を簡単に取り外してジャバジャバ洗うことができているようにできています。
イワタニやニチネンなどのコンロの多くは、汁受けがフッ素加工コーティングされており、油汚れなどは洗剤で軽く洗うと簡単に落ちるようになっています。
一方、例えばイワタニのアウトドア向けのコンロなどはそういった加工はなく、風防があるため形状もやや複雑で、特に焼き付いた油汚れなどは落としにくくなってしまいます。
※ 繰り返しますが、我が家ではそもそも掃除が必要なケースはあまりないので、さほど気にはなりません。
風への強さ
屋内でしか使用しない場合は気にする必要はないと思いますが、キャンプ/バーベキューや災害時の屋外使用を考えると、風や寒さに対する強さが重要となります。
例えば、屋内用の(風対策のない)カセットコンロは、屋外で使用するとちょっとしたそよ風でも熱効率が極端に下がります。場合によっては火が消えてしまいます。
一方で、後に紹介するような風対策のあるコンロの場合は、多少の風なら問題なく使用できるようになっています。
寒さへの強さ
寒さについては、コンロ自体ではなく、ガスの種類が影響します。
屋内(室温15℃以上が目安)で使用する場合は気にする必要はありません。どのようなガスでも問題ないです。
特に、気温が10℃以下の環境で使う場合は、ガスの種類による差が出てきます。
安価なカセットガスは、ノルマルブタンというものが使われていますが、これは沸点が高く、気温が低い場合は十分な圧力(蒸気圧)にならず、火力が弱かったり点火しなかったりします。
一方で、沸点が低い(温度が低くても圧力が高い)イソブタン(さらに沸点が低いプロパン)が配合されているカセットガスの場合、寒い時期の屋外使用でも比較的大きな火力を得ることができます。
アウトドアでの使用を想定されている一部のカセットコンロは、寒さに強いガス配合のカセットボンベの利用に対応しています。
用途別おすすめカセットコンロ
屋内専用ならスタンダードなタイプ
通常は屋内でしか使用しない、停電や災害時なども屋内で使用できれば十分という場合は、どのようなカセットコンロでも使えます。
特にこだわりがない人であれば、おすすめはイワタニのカセットフー 達人スリムIIIです。
五徳の高さが7.4cmとかなり低くて安定感があります。
屋内では使い勝手のバランスが良い外炎式バーナーであり、最大発熱量は3.3kWと、通常の使用で不足することはありまないと思います。
汁受けのフッ素加工等、最近の屋内向けではスタンダードになりつつある機能は十分備えています。
それでいて、実勢価格は3,000円ちょっと(本記事執筆時点)であり、コスパの良い製品だと思います。
キャンプ/BBQや災害時の屋外使用も考えるならアウトドアタイプ
最近はファミリーキャンプでの調理火器として主流になってきているのがカセットコンロですね。
アウトドア向けのカセットコンロが販売されるようになって、一気に使われるようになりました。
屋外での使用を考えた場合、重要なのは風に対する強さ、(時期・地域によっては)寒さに対する強さとなります。
これら、屋外での使用に最も向いていると思われるのが、イワタニのカセットフー タフまるです。
価格は屋内向けのものよりも高く(達人スリムIIIの倍くらい)なってしまいますが、屋外で使うならそれだけの価値はあるものです。
アウトドア向けのカセットコンロについて、以下の記事でもう少し詳細を紹介しています。
お客さんのおもてなし用ならプレミアムタイプ
旅館や料理店での使用はもちろん、自宅でもプレミアムなものを使いたいひとへのおすすめは、イワタニのアモルフォプレミアムです。
これは、カセットコンロの最高峰と言って良い製品ですね。当然、お値段も最高峰です。
点火方式が連続スパーク(キッチンのガスコンロによくあるタイプ)のため、乾電池が必要なことに注意してください。
電源が使えるならIHクッキングヒーター
ここまで、カセットガスについて説明しておいてなんですが、家庭用の100V電源を使える前提であれば、個人的には卓上IHクッキングヒーターのほうがダントツでおすすめです。
カセットコンロに対する、IHクッキングヒーターのメリット・デメリットを簡単にまとめてみます。
IHクッキングヒーターのメリット
- 高さが低い (4-6cm程度)
- ランニングコスト(燃費)が低い
- 火力は常に安定している
- 熱ムラが少ない
- 風の影響がない
- 寒さの影響がない
- 二酸化炭素/一酸化炭素を発生しない
- (IHコンロによっては)多彩な調理メニューがある
- 掃除が簡単
構造的に高さが低く、非常に安定するのでテーブルの上の鍋料理などで非常に使いやすいです。
ランニングコストについては、大きな差がでます。
カセットガス1本分の熱量を出すための電気(約3.5kWh)料金は大体100円くらいです(電力会社や契約形態により違います)。
さらに、熱効率についてはIHの場合カセットコンロ(40%程度)の倍以上(90%程度)になります。
つまり、カセットコンロでカセット一本分の仕事をするのに必要なコストは50円以下ということになります。これは安いですね。
火力の安定性・熱ムラについては、構造上比較的に広範囲で鍋を熱する仕組みであり、さらに火力は電気的に制御できるので安定した火力を得ることができます。
風や寒さについては、まったく影響がありません。
また、二酸化炭素や非常に危険な一酸化炭素を発生しないため屋内で使用する場合にも換気などに気を使う必要がないのも大きなメリットです。
IHクッキングヒーターのデメリット
- 電気がないと使えない
- 対応する鍋・フライパンしか使えない
- カセットコンロより高価な場合が多い
カセットコンロの最大の利点は、カセット一つでどこでも使えるというものですが、IHは電気がないと使えません。災害時の備えとしてはあまり役に立ちませんね。
もう一点、IHに対応する鍋やフライパンしか使えないというのも欠点となります。
価格はカセットコンロより高くなる場合が多いです。ただし、ランニングコストの低さを考えると十~数十回使えばトータルコストは安くなります。
余裕があればIHとガスコンロの2台が最強
上記のメリット・デメリットを考えると、多くの場合、自宅内での使用は卓上IHクッキングヒーターが最良の選択肢となるのではないでしょうか? (対応する鍋・フライパンが必要ですが・・)
一方、キャンプや災害時の備えとなるとカセットコンロのほうが使える場面は多いですね。
卓上IHクッキングヒーターのおすすめ
最後に、おすすめの卓上IHクッキングヒーターを少し紹介しておきます。
パナソニック 卓上IH調理器
卓上IHクッキングヒーターとしては、おそらく最も高機能、高スペックな製品ではないかと思います。
機能例として、温度センサーが付いており、例えば炊飯や煮込み等、細かな温度制御が必要な調理もコース設定されており、自動で調理してくれます。
揚げ物にも対応しており、温度が調整できるため非常に便利です。
キャンパーにとってすごくありがたい機能としては、消費電力が1000Wを超えないようにするモードがあることです。(本来は自宅のブレーカーが落ちにくくするために用意されている機能のようです)
キャンプ場で電源が使えるようになっている場合でも、多くは使える電力を1000W以下に制限しています。そのような時にも比較的安心して使えます。
アイリスオーヤマ 薄型IHクッキングヒーター
高さが4cmと、非常に薄型のクッキングヒーターです。テーブルで使うには非常に使いやすいですし、収納時もコンパクトになります。
パナソニックほどではないものの、揚げ物(油の温度設定可)に対応するなど、十分な機能を備えています。
もちろん、鍋が載っていないことを検知したり、過熱防止機能等、最近の高機能IHクッキングヒーターではスタンダードと言える安全機能もしっかりついています。
アイリスオーヤマには、ほぼ同等の機能で薄型ではない(5.2cm)の製品もあります。
実勢価格の差は本記事執筆時点で1,500円程度あるので、薄型かどうか迷うところですね。
ちなみに、自分だったら1.2cmの高さの差は1,500円以上の価値があると考えるので、どちらかから選ぶとしたら薄型にします。
※ ただ、いま新しいものに買い替えるとすると、パナソニックのほうにする可能性が高いです。(キャンプでも使うので1000Wモードや炊飯コースはすごく魅力があります)