キャンプだけでなく、オフィスでの仮眠用や、最近では災害に備えて用意する人も多い寝袋(シュラフ、スリーピングバッグ)ですが、その種類の違いや選ぶ基準を知っていますでしょうか?
当記事では、主にファミリー・オートキャンパーをターゲットとして、寝袋の種類や素材によるちがいを説明し、選ぶ際の基準を解説します。そして最後にはシーズン別におすすめする寝袋を紹介します。
寝袋, シュラフ or スリーピングバッグ?
寝袋、シュラフ、スリーピングバッグとそれぞれ呼び方はありますが、どれも同じものです。
寝袋はもちろん日本語、シュラフはドイツ語のSchlafsack(シュラフザック)を由来とした日本国内の呼称(ドイツ語で単にSchlafというと「睡眠」という意味です)、スリーピングバッグは英語のSleeping-bagです。どれも訳すと「眠るための袋」といったような意味ですね。
日本国内の登山用語はドイツ語が由来であることが多いようです。(例えばワンダーフォーゲルとか)
実際に、登山をする人は「シュラフ」と呼ぶことが多いように思います。一般的には「寝袋」と言えば大抵の人には通じますよね。
「ジッパー(Zipper)」は英語というか、もともとアメリカの商品名だったのが、今は米国での一般呼称になっているものです。これはドイツ語ではないんですね。話がそれますが、「チャック」はもともと日本の会社の商品名だったのだそうです。
最近は日本国内では「ファスナー」と呼ばれることが多いように思います。あのYKKでも「ファスナー」と呼んでいます。当記事では、以降「ファスナー」と表記します。
寝袋の形状
寝袋には一般的に、封筒型とマミー型の2種類のものが主流となっています。以下にそれぞれの特徴を解説します。
また、最後には「人型」なんていう番外編も紹介します。
マミー型
キャンプをやらない人が「寝袋」と聞いてぱっとイメージするのがこの形だと思います。
マミー(mummy)というのはミイラのことです。その名の通り、エジプトのミイラを彷彿させる見た目ですね。
体の形状に合わせた形(よくミノムシのようと表現されますね)で多くのものは頭まで覆うようになっています。外気が入りにくいため保温効果が高く、必要な生地も少ないため、同等の暖かさを得るためのもので比較すると、封筒型よりも軽量、コンパクトになります。
一方、(ちゃんとしたものは)比較的複雑な形状に仕上げるための縫製等、製造に手間がかかることから、価格は高めになりがちです。
保温性の良さから、寒い時期・地域での使用や、軽量・コンパクトであることから登山や車を使用しないツーリングなどのキャンプ等で選ばれることが多いタイプです。
僕は使ったことがないので評価はできませんが、スペックを見る限り、見た目とは違ってそこそこ本格的なもののように見えます。お値段も本格的ですが。。
封筒型
その名の通り封筒のような長方形の寝袋です。
多くは正方形に近い一枚の生地を半分に折り、足元とサイドについているファスナーを閉めることで封筒の形になるようになっています。
マミー型に比べて、寝袋の内部が広く、手足を動かす自由があるので寝心地がよく、寝袋への出入りも楽です。ただし、保温性については、肩口が広く開いているため、冷気が入りやすいことからマミー型には劣ります。
また、ファスナーを全開にすることにより、封筒型ではなく1枚の敷布団、掛け布団として使うこともできる等、状況によって温度調節の自由度が高いというメリットも大きいです。
広々として寝やすい一方、生地や中綿の量も多くなるため、収納時のサイズや重さがマミー型よりも大きいというデメリットもあります。
比較的低価格のものが多く、寒さがあまり気にならない時期・地域でのファミリー・オートキャンプでよく使われるタイプです。
番外編 : 人型
なぜ番外編にしたかというと、僕は使ったことがないので評価できないからです。
なかなかおもしろいですが、使っている人もあまり見たことがありません。
着たまま動き回ることもできそうで、なかなかおもしろいですね。寝相が悪い人にも良いかもしれません。
寝袋の中綿
寝袋の中綿に使われる素材は、羽毛と化繊(化学繊維)の2種類があります。
羽毛
同じ暖かさを得るには、化繊よりも少ない分量で済むため、軽くて携帯時のサイズもかなり小さくなります。
そのため、全てのギアを担いで歩く必要のある登山等では、羽毛のシュラフが使われることが多いです。
一方で化繊に比べるとデリケートなところがデメリットになります。
まず、羽毛が傷みやすいので、洗濯はあまりしないことが推奨されています。(洗濯できないわけではありません)
また、コンパクトにできるのは運搬時のみで、その性能を維持するためには、自宅においておくときなどは収納袋から出し、ふわっとさせた状態にしておいてやる必要があります。カビにも弱いので、湿気は厳禁です。
それに、なんと言っても高価ですね。
こういった理由から、ダウンシュラフは登山やツーリングなどの、運搬時に軽量・コンパクト性が求められる用途ではメリットがあるものの、オートキャンプではデメリットが目立ちます。
化繊
こちらのメリット、デメリットはダウンのそれと逆になります。
同じ暖かさを得るためには、ダウンよりも多くの中綿が必要になるため、サイズが大きく、重量も重くなります。
一方で、化繊の寝袋の中綿で一般的に使われるポリエステルは、羽毛に比べて丈夫で耐候性に優れ、濡れても乾きやすいので、多くの製品が洗濯機で洗濯をすることができます。
※ 中には洗濯機の使用を禁じている製品もありますので注意してください。
保管時も羽毛と違い、小さく畳んだままでも中綿の痛みが少ないため、場所をとりません。
羽毛の寝袋より価格も安く、サイズや重さをあまり気にしないオートキャンプでは、化繊の寝袋がよく使われています。
ダウンの寝袋のほうが暖かいというわけではありません
同じ厚み、同じ重さの寝袋であれば、ダウンのほうが温かいのは確かです。
ただ、寝袋にはそれぞれ使用温度が設定されており、例えば使用可能温度が10℃の寝袋ならばダウンだろうと化繊だろうと気温が10℃以上で使用できます。つまり、使用可能温度が同じ寝袋は、中綿がダウンでも化繊でも暖かさは同じです。
同じ使用温度のダウンと化繊で違うのは、主に重さと収納袋に入れたときのサイズです。
使用可能温度
一年を通してキャンプをしようと言う場合、1つの寝袋で済ませるのはちっと無理があります。例えば、自宅の掛け布団も、夏と冬で同じものを使うのはつらいですよね?
大抵の寝袋には使用可能温度が、そして多くの場合は限界使用温度(リミット温度)と快適使用温度(コンフォート温度)(メーカーに寄って呼び名は異なります)の2通りの使用温度が設定されています。
※ 以下に説明する、極限使用温度を表記する場合もあります(特に極地で使われる可能性のあるハイエンドモデルなど)。
EN23537 (旧EN13537)による温度表記
ヨーロッパの規格であるEN23537(旧EN13537)に寝袋の温度表記について規定されています。
メーカーはこの規格に準拠する義務はありませんが、少なくとも日本の代表的なメーカーであるモンベル、ナンガ等は温度表記にこの規格で測定した値を使用しています。
モンベルによる説明ページ(説明ページはなくなってしまったようです)- ナンガによる説明ページ
このEN23537に規定された方法では、実際に(人の体温を模した)ヒーターと温度計をいくつかつけたマネキンを寝袋に入れて、温度を測定することにより、使用温度を得ています。
測定結果により、具体的には以下の4通りの使用温度が決められます。
- Upper Limit (上限使用温度)
- フードとファスナーを開き、両手を外に出した状態で、標準的な男性が過度に汗をかかずに眠ることができる温度。
- Comfort (快適使用温度)
- 標準的な女性がリラックスした姿勢で快適に眠ることができる温度。
- Lower Limit (下限使用温度、限界使用温度)
- 標準的な男性が丸まった姿勢で8時間眠ることができる温度。
- Extreme (極限使用温度)
- 標準的な女性が低体温症による死亡のリスク(凍傷にはなり得る)なしに6時間まで持ちこたえることができる最低温度。
※ 標準的な男性 : 25歳、身長173cm、体重73kgの男性を想定
※ 標準的な女性 : 25歳、身長160cm、体重60kgの女性を想定
そして、多くの場合は、上記のLower Limit(限界使用温度)と、Comfort(快適使用温度)の両方あるいはどちらかが寝袋の使用温度として表記されているわけです。
片方しか表記のない場合、目安としては限界使用温度に5℃程度加えた温度が快適に使用できる温度と言われています。(寒さの感じ方には個人差があります)
また、防寒という意味では、下に敷くマットがかなり重要です。フカフカのダウンの寝袋でも、寝てしまうと地面との間に空気の層がなくなるので、背中側の断熱はかなり弱くなります。
また、何を着て寝るかによっても全然変わってきます。
どのくらいの使用温度の寝袋を選べばよいのか?
それでは、実際に寝袋を購入するときに、どのくらいの使用温度のものを選べばよいのでしょうか?
これは、使う時期・地域や人それぞれのキャンプスタイルによって違ってきます。テントの種類や暖房の使用有無によっても変わってきますね。
以下はあくまでもざっくりとした目安と考えてください。
夏休みにしかキャンプをしない | 快適使用温度で10〜15℃ |
春〜秋の比較的暖かい時期にキャンプをする | 快適使用温度で5〜10℃ |
上記以外の寒い時期にキャンプをする | 快適使用温度-3℃以下 |
特に標高のある山間部では、朝の冷え込みが思いの外厳しいことがあります。同じ地域でも、平地での最低気温はあまり当てになりませんので注意してください。
ファミリー・オートキャンプに適した寝袋は?
3シーズン(春・夏・秋)用
春〜秋の比較的暖かい時期に使う寝袋には、化繊の封筒型が使いやすくておすすめです。
快適使用温度は5℃以上あれば、だいたい大丈夫だと思います。適切なスリーピングマットや厚手の服、靴下とあわせて使えば、多少冷え込んでも対応できます。
もちろん、車で積むときのサイズ制限が厳しい場合は、ダウンの寝袋と言う選択肢もあります。
化繊の封筒型は、特にファミリー・オートキャンプ用品を扱う各メーカーに商品がありますが、僕の感想では、それなりに名の知られたメーカーのものであれば機能性や保温性についてはどれもたいして変わりません。
念のため確認しておきたいのが、ファスナーがダブルファスナーになっているかどうかです。ダブルファスナーというのは、寝袋のファスナースライダーが2つついていて、上からも下からも開閉できるようになっているものです。これによって暑いときは足だけを出す等、気温に応じた使い方の自由度が大きくなります。
特に理由がない限りダブルファスナーのものを選びましょう。(大抵はダブルファスナーだと思いますが)
内側がフリースや起毛仕上げになっているのもあり、これは確かに肌触りがいいです。僕はポリエステルのシャカシャカした軽い感触が好きなので、自分ではそういうあまり凝ったものは買いません。
特に夏場に使うことを考えると、高価なものを選ぶよりも寝袋は消耗品と割り切って、毎回洗濯機で洗濯しちゃうようにしたほうが、気持ちよく使えると思っています。
春・夏・秋の3シーズン通してファミリー・オートキャンプで使う寝袋で僕がおすすめするのは、コールマンのパフォーマーIII C5です。
快適使用温度5℃で、余計なものがないシンプルな作りで実売価格が4,000円程度と、コストパフォーマンス良しだと思います。
僕が使っていたのは、これではなくパフォーマーの旧モデルですが、それからファスナーが噛みにくくなっている等の改良もなされているようです。
もちろん、ダブルファスナーだし、洗濯機での丸洗いも可能です。
こちらは安くて実用性は特に問題ないですが、質感やデザインはコールマンのほうがずっと良いですね。
冬用
アウトドア用品の世界では、4シーズン対応という表現がよく使われますが、少なくとも寝袋の世界では4シーズン対応といえば「冬用」だと思って良いです。4シーズン対応を謳うものは夏の暑さでは使えません。
さて、3シーズン用のものと違って、寒い時期に使う寝袋は、防寒性が非常に重要です。暑い分にはなんとかなるものですが、寒いときは本当に一睡もできずに一晩中震えて過ごすことになりかねません。
少なくとも関東以西の平地であれば、おそらく快適使用温度が0℃くらいでも大丈夫だと思います。(もちろん、適切なマットの使用や温かい服装を着るのが前提です)
寒い地方や、標高の高いところでの厳冬期のキャンプをする場合は、さらに快適使用温度が低いものを選ぶとよいかと思います。
形状については、防寒性を優先してマミー型を選択したほうが良いかと思います。
冬に使用する寝袋で僕がおすすめするのは、モンベルのバロウバッグ#0です。
快適使用温度が-7℃なので、ファミリー・オートキャンブをするような場所はほぼカバーできるのではないかと思います。
そこまで寒いときにはキャンプはしないという場合は、同じバロウバッグで快適使用温度が-3℃の#1もあります。
モンベルの寝袋の大きな強みである、伸縮性のある生地の使い方と構造により、マミー型でありながら窮屈でなく寝心地が良いです。
モンベルといえば、ダウンの寝袋が有名ですが、運搬時のサイズ・重量を気にしなくて良いオートキャンプでは、安価で取り扱いが楽なこちらの化繊タイプの方が良いと思います。
寝袋だけの防寒では不十分
当記事では、寝袋について解説しましたが、寒さ対策としては寝袋と同じくらい重要なのは、下に敷くマット(スリーピングマット)やコットです。
どんなにフカフカな寝袋を使っても、床と接する背中の部分は体重によって潰されるため、空気の層がほとんどなくなります。(特にダウンの場合は完全にぺっちゃんこになります)
そのため、暖かい寝袋を使ったところで、マット無しでは冷たい地面に熱を奪われてしまい、体全体が冷やされてしまいます。
マットは寝心地を良くするという目的以上に、断熱の役割が重要なものだと考えて良いと思います。
マットについては、以下の記事で解説しています。